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記録 No.005 / 資料

キャブレターの油面 ── なぜ狂うと被るのか、キャブを外さずに測る方法

4本のプラグのうち左2本だけ真っ黒。点火系では説明がつかない組み合わせだったので、油面を疑うことにした。油面のカラクリ、規定値、車載のまま透明ホースで測る手順、狂う原因と直し方まで。

きっかけ

整備済みとして買ったGPZ400が届いた。アイドリングが不安定、温まっても止まる、アクセルを急に開けると被る。 プラグを抜いたら、#1と#2が真っ黒、#3と#4はほぼ正常

このバイクの点火コイルは 1-4 と 2-3 のペアで火を飛ばしている。 点火が原因なら黒くなるのは「1と4」か「2と3」のはずで、「1と2」が揃って黒いのは点火では説明がつかない。 残るのは燃料側、しかも気筒ごとに差が出る場所 ── キャブの油面だった。

GPZ400(ZX400A)キャブまわり規定値

項目 備考
キャブレター ケイヒン製 CV型(負圧式)4連 各気筒に独立したフロート室
油面(実油面) 合わせ面から 0.5mm(許容 ±1mm) サービスマニュアル記載値。方向は本文参照
フロート高さ 16.5mm キャブ単体で測るときの値
標準プラグ NGK DPR9EA-9(旧表記 DP9EA-9) ギャップ 0.9mm / 純正品番 92070-1068
点火コイルのペア 1–4 / 2–3 焼けの組み合わせで点火か燃料かを切り分けられる
気筒番号 跨って左から 1・2・3・4 左2本=#1 #2

油面の「0.5mm」は、この年代のカワサキのサービスマニュアルに書かれている値で、 キャブ本体とフロート室の合わせ面(ガスケットの線)から測る。 同年代のケイヒンCVを積んだカワサキ車の規定は「合わせ面より0.5mm下、許容±1mm」で書かれているので、 実用上は合わせ面の線から 下に1.5mm 〜 上に0.5mm の範囲に入っていれば規定内と読んでいい。

ただし今回いちばん大事なのは規定値そのものではない。4つの差だ。
4つとも規定内でも #1#2 だけ1.5mm高ければ、それだけで左2本が黒くなる説明がつく。


01|油面のカラクリ ── なぜ濃くなったり薄くなったりするのか

フロート室は「小さなタンク」

キャブレターの下側に付いているお椀(フロート室)は、燃料を一時的に溜めておく小さなタンクだ。 ガソリンタンクから落ちてきた燃料はここに溜まり、ジェットを通ってエンジンに吸われていく。

この小さなタンクの水位を一定に保っているのが、フロート(浮き)とフロートバルブ(針弁)。 仕組みはトイレのタンクとまったく同じで、水位が上がると浮きが持ち上がり、浮きにつながった針が燃料の入口を塞ぐ。 燃料が減って浮きが下がると針が開き、また燃料が入る。 この「針が閉じる高さ」が油面で、フロートの取り付け角度で決まっている。

油面が高いと濃くなる理由

エンジンが燃料を吸い出すのは、吸気の流れがつくる負圧でジェットの中の燃料を持ち上げているからだ。 ジェットの出口はフロート室の油面より上にある。 つまり燃料は油面から出口までの高さぶん、持ち上げてもらわないと出てこない。

油面が高い 持ち上げる高さが小さい → 同じ吸い込みでも燃料が多く出る → 濃い
油面が低い 持ち上げる高さが大きい → 燃料が出にくい → 薄い

この影響がいちばん強く出るのがアイドリングと低開度だ。 アクセルを開けているときは吸い込みが強いので、1mmの差は誤差になる。 ところがアイドリング中はもともと吸い込みが弱いから、1mmの差がそのまま混合気の差になる。 「アイドリングだけおかしい」「温まると止まる」「急に開けると被る」が油面で説明できるのはこのため。

ストローで飲むのと同じで、水面が高いほど弱い力で吸える。アイドリングは「弱い力」で吸っている状態。

「温まると止まる」が油面でつながる理由

油面が高すぎると、あと少しで燃料が溢れる状態でエンジンが回っている。 エンジンが温まると、熱でフロート室の燃料が膨張し、振動も増える。 すると針弁が閉じきれずに燃料がじわじわ溢れ、余った燃料はオーバーフローパイプから外に出るか、 そのまま吸気側に流れ込んで燃焼室をガソリンで濡らす。 これが「温まってから止まる」「プラグが濡れて黒い」の正体になることが多い。

気筒ごとに差が出る唯一の場所

4気筒のキャブは、フロート室も、フロートも、針弁も、4つとも別々だ。 だから4つのうち1つや2つだけ油面が狂う、ということが普通に起きる。

エアクリーナーや点火時期は4気筒共通なので、「#1#2だけ濃い」を説明できる場所は限られる ── 油面、パイロットスクリューの戻し回転数、チョークの戻り、この3つだけと言っていい。


02|「フロート高さ」と「実油面」は別物

ここを混同すると、正しく作業したつもりで直らない。

フロート高さ 実油面
何を測るか キャブを外して、フロートの位置を定規で測る 実際にガソリンを入れて、水位を測る
規定値 16.5mm 合わせ面から0.5mm
状態 静止した形状の話 針弁の密着・ばね・燃料の圧力まで含んだ結果
精度 フロートの角度で狂う。40年物のフロートは変形している 実際に起きていることそのもの
手間 キャブを降ろす必要がある 車載のまま測れる

フロート高さは「新品のキャブを組むときの目安」で、実油面は「いま起きていること」だ。 フロートが年数で少し沈んでいたり、針弁の先がわずかに摩耗していたりすると、フロート高さが規定でも実油面は狂う。 逆にフロート高さが多少ずれていても、実油面が規定内なら問題ない。

だから先に実油面を測る。 キャブを降ろすのは、実油面が狂っていて、原因を直すときだけでいい。


03|車載のまま実油面を測る

用意するもの

透明ホース 内径5〜6mm × 50cmほど 燃料に使えるもの。ホームセンターの耐油ホースで足りる
金属の直定規(15cm) 目盛りが端から始まっているものがいい
油性マーカー 合わせ面の高さをホースに写す
マイナスドライバー ドレンスクリュー用。サイズを合わせる(なめやすい)
ウエスと受け皿 必ず垂れる

作業の前提

⚠ 屋外か、換気の良い場所。火気厳禁。ガソリンを扱う。

手順

  1. フロート室の底を見る。中央にマイナスのドレンスクリューがあり、その横に細いドレンパイプが下向きに出ている。ここにホースを差す
  2. ホースをドレンパイプに差し、キャブ本体に沿わせて上向きにU字に立てる。ホースの上端が合わせ面より5cm以上高くなるようにする
  3. 合わせ面の高さをホースにマーカーで写す。 キャブ本体(アルミ)とフロート室の境目の線が基準線。ホースを合わせ面の高さに持っていき、定規を当てて印をつける
  4. ドレンスクリューを1〜2回転ゆるめる。外さない。 ゆるめるとフロート室の燃料がホースに流れ込み、ホースの中の油面がフロート室の油面と同じ高さで止まる
  5. 30秒待つ。 途中でホースを動かさない。気泡が入っていたら、ホースの上端を軽く指で押さえて抜く
  6. フロート室を指の腹で軽くコンコン叩く。針弁が引っかかっていた場合、ここで油面が少し動く。落ち着いたところを読む
  7. ホースの油面と、マーカーの印の差を定規で読む。印より下なら「−○mm」、上なら「+○mm」。 0.5mm単位で読めれば十分
  8. ドレンスクリューを締め、ホースを外して中身を受け皿に出す
  9. #1〜#4を全部同じやり方で測り、記録する

ホースの中の油面は、フロート室の中の油面と同じ高さで止まる(つながった容器の水位は同じになる)。

読み方

結果 意味 次にやること
4つとも −1.5〜+0.5mm に入り、差が1mm以内 油面は正常 油面は原因から外す。パイロットスクリュー・チョーク・同調へ
#1#2だけ高い(他より1.5mm以上上) プラグの黒さと一致 #1#2のフロート室を開けて針弁とフロートを点検
全部高い 前オーナーの調整ミスか、フロートの劣化が全体に出ている 4つとも調整
どれかが極端に低い 針弁の固着、フロートの当たりの変形 その気筒のフロート室を開ける
ホースに燃料が上がってこない ドレンの詰まり、コックから燃料が来ていない ドレン穴を細い針金で通す。コックの位置を確認
待っても油面が上がり続ける 針弁が閉じていない(オーバーフロー) すぐコックを閉じる。針弁の交換対象

04|油面が狂う原因と直し方

実油面が狂っていたら、その気筒のフロート室だけを開ける。 キャブは降ろさなくても、フロート室のネジ(4本)を外せば底が開く。ただし燃料は抜いておくこと。

原因 見分け方 直し方
針弁の先にゴミ・サビ 針の先(ゴム)に異物、座面にザラつき 針と座面を清掃。タンク内のサビが出ていれば根本はタンク
針弁の先の摩耗 ゴムの先端に段が付いている。爪で分かる 針弁交換。40年物ならまとめて4つ替える
針弁のピンの固着 針の頭にある小さなピン(ばね入り)が押しても戻らない 清掃。戻らなければ交換
フロートの沈み フロートを燃料に浮かべて傾く・沈む 交換。樹脂フロートは燃料を吸って重くなることがある
フロートの舌(タング)の曲がり フロート高さを測ると16.5mmから外れている 舌を少しずつ曲げて調整(下記)
フロート室のガスケット劣化 合わせ面からにじみ ガスケット交換

フロート高さの測り方(キャブを外したとき)

  1. フロート室を外し、キャブを横向きにする。フロートのピンが上、フロートが横に垂れる向き
  2. フロートの舌が針弁の先に触れるだけの位置で止める。針弁の頭のピンを押し込まない。 ここを押し込んで測ると、1mm近くずれる
  3. 合わせ面から、フロートのいちばん低い点までを定規で測る。16.5mm
  4. ずれていれば、舌を細いラジオペンチで少しずつ曲げる。フロート本体を持って曲げない

曲げる向き

やりたいこと 舌をどうするか フロート高さの数字
油面を下げたい(濃いのを直す) 舌を針弁側に押す(針が早く閉じる) 大きくなる(16.5→17など)
油面を上げたい(薄いのを直す) 舌を針弁から離す(針が遅く閉じる) 小さくなる

覚え方:数字が大きい=油面が低い。

実油面で1mm高かったら、フロート高さをおよそ1mm大きくする。 ただし1対1では動かないので、曲げたら必ず組み直して実油面を測り直す。 一発で決めようとせず、2〜3回で追い込む。


やってはいけないこと

01|傾いた車体で測らない。
サイドスタンドで測った数字は、そのまま「左右のキャブが逆方向にずれている」ように見える。水平が取れていないなら測る意味がない。

02|針弁のピンを押し込んだ状態でフロート高さを測らない。
針の頭にはばね入りのピンがある。ここを押した状態で測ると、実際より油面が高い方向に組んでしまう。舌が「触れるだけ」の位置で。

03|オーバーフローしたまま走らせない。
溢れた燃料は吸気を通って燃焼室に入り、シリンダー壁を洗ってエンジンオイルにガソリンが混ざる。 オイルの粘度が落ちてエンジンを傷めるうえ、熱いエンジンの上に燃料が垂れれば火災になる。油面が上がり続けるのを見たら、その日は乗らない。

そのほか


05|プラグを見てから油面に行く、の順番について

油面を測る前にプラグを見たのは、プラグは4気筒それぞれの結果を教えてくれる唯一の窓だからだ。

プラグの焼け 疑うところ
4本とも同じ色 4気筒共通のもの ── エアクリーナー、点火時期、燃料の質、全体の油面ズレ
1-4 か 2-3 で違う 点火系 ── 点火コイル、プラグコード(コイルのペアで判断できる)
それ以外(1-2、1本だけ) キャブ個別 ── 気筒ごとに独立した部品。今回はこれ

今回は「1-2」だったので、キャブ個別の油面・パイロットスクリュー・チョーク戻りに絞れた。 やみくもにキャブを全部ばらす前に、プラグの組み合わせを見るだけで作業範囲が半分以下になる。

プラグの掃除と規定値(GPZ400)

買うもの

まだ買っていないので、リンクは付けていない。実際に使ったものが決まったら差し替える。


印刷用

PDF キャブレターの油面(PDF) A4・12ページ / 1.4MB ダウンロード


出典

サービスマニュアル記載の油面0.5mm・フロート高さ16.5mmは、GPZ400Fのマニュアルを引用したQ&A(Yahoo!知恵袋、2018年)による。 GPz400(1983・ZX400A1)とGPz400F(1984〜・A2〜A3)は同系のキャブレターで、フロート高さ16.5mmは整備業者の作業記録(GARAGE ACCELERATE)でも同じ値が使われている。

標準プラグDP9EA-9はバイクブロス車種カタログ(GPZ400・ZX400A)、DPR9EA-9と純正品番92070-1068は絶版部品店BRCの商品情報による。 フロート高さと実油面の違い、油面が混合気に与える影響の説明は、Webikeプラスの整備記事を参考にした。

油面の許容範囲「±1mm」は同年代のカワサキ車(ケイヒンCV搭載)のサービスマニュアルの書き方に倣ったもので、 GPZ400の原本で確認でき次第この記事を直す。